サンダーのママ

「おかあさん」


「おかぁさん」


意識が戻ったり　また眠ったりの義母が　わたしを呼んだ


「おかぁさん」　




だからわたしは　訂正する気にはなれず


はいはい　なぁに？


そう応え　


内容的にはエンドレスな会話を続けるうちに


義母はまた　眠ったようだった



亡くなる一週間前の　夜半のことだった




後になって　叔母さん（義母の妹）から聞いた話によると

義母は13歳の時に実母を亡くしたそうな

遺されたのは　

義母本人と　兄　10歳下の妹　そして生まれたばかりの妹　


父親はまもなく後妻を迎えたけれど

実母を忘れきれずに年ごろを迎えた義母は

継母に馴染めずにいたせいで

水窪の本町の実家から　

掛川の塩町にある縁故の家に　ひとり預けられたそうで



孤独な義母の気懸りは　幼い二人の妹のことばかり



ある時　兄に宛てて

妹たちをこまやかに気遣う手紙を出したのだけれど

なぜか親たちに読まれてしまい

義母はたいそう叱られたそうな



今を遡ること８０年近くも昔の話で

子供の心理状態など

あまり重んじられなかった時代の話です




その頃大人だった人など　もう誰も残ってはおらず

幼かった叔母の記憶もそこまでで

塩町のどんなお宅の辺りに　義母は住まわっていたのか

もうわからない



歩いてみようか　塩町のあたりを


１３歳の義母が　何を思い　日々を過ごしたのか



見つかるだろうか



７９年前の義母の足跡が



アスファルトの下に




そうだとしても　

歩いてみた方が　良いような気がする　きっと




今日　義母の葬儀を終えた


水窪の小畑の葬儀は

告別と言うにはあまりに因習めいて　慌ただしく

亡き人を悼む余裕すら　与えてくれなかった



因習と伝統とは違うものだと　あらためて思う


因習とは　

なにかしら野蛮な気がする

申しわけないけど



義母を偲ぶには

もっと心のこもった何かを　有志だけで執り行いたい気がする



「心やすいが良いね」


それが義母の口癖だった


心やすく　うちとけて　愛情や　やさしさを


なにより求めた義母だと信じるから



きっと今ごろは　天国で

ほんとの「おかあさん」や最愛のじぃじ（夫・つまり我が旦那の父）に　

再会してる頃と信じています



旦那との出会いが遅かったので

たったの１２年しか知りあえなかったけど

おかあさんが　

まだ死んでしまいたくない

もっともっと　生きることを楽しみたいと願っていたことを

わたしは感じていました


わたしも


あとほんの　もう少しでいいから　一緒に過ごしたかったです